岩手県葛巻町はエネルギーの地産地消をめざしている
岩手県ぐるっと一周の2日目は、標高1000メートル級の山あいのまち、葛巻(くずまき)町です。人口7000人弱、牛は1万頭。作り出している電力は町で消費している量の160%!「ミルクとワインとクリーンエネルギーのまち」がキャッチフレーズです。
再生可能エネルギーの取り組みを紹介するツアーがあって、申し込むと役場の担当者が一日ついて説明してくれます。鉄道も高速道路もない、寒くてコメもできない、酪農と林業しかない町が、「新エネルギーに取り組む」と宣言して、風力、畜ふんによるバイオマス、太陽光など、地形や産業にあったエネルギーをつくっている様子をわかりやすく話してくれました。
もっとも発電量が多いのは風力ですが、それはかの電源開発(株)がつくったもので、町は土地を貸しているだけ。財政への貢献はほとんどありません。しかし、世界でも1000メートル級の高地に風力発電を作った例はほとんどないそうで、これが成功したことから、さらに増やすそうです。
第3セクターの牧場で出た畜ふんを集め、メタンガスを採取して発電するバイオマス発電。その牧場が「くずまき高原牧場」です。ここだけで2000頭の牛がいます。処理能力は200頭分程度だそうですが、現在は、人が出した生ごみもここで一緒に処理して、牧場内の電気の20%程度をまかなっているそうです。
太陽光発電は、まず、公共施設に全部つけて、そこには蓄電池を置いて、災害時に停電しない「無停電化」を推進しているというのです。学校には大きな太陽光パネルがありました。地域のコミュニティセンターにもついていました。こういうところは発電してもそんなに使わないので売電し、そのお金はコミュニティセンターの運営協議会の運営費にしているそうです。それは知恵ですね。
時間がなくて見学できなかったのですが、木質ペレットも大がかりにやっているようです。
町の担当者が強調していたのは、「エネルギーを売って、それで町の財政を何とかしようと思ってはいないのです。私たちは酪農と林業のまちです。その振興を図る中で、副次的に生まれてくるものを余さず使おうとおもったら、エネルギーがあったのです」「いまは、仕組みとしてもインフラとしても、作った電気はその場で使う以外は、みんな東北電力が持っていくしかないが、近い将来、町の中で作った電気で町の人が暮らす、エネルギーの地産地消を実現したい」ということでした。それこそが、原発という巨大な、人間が制御できないものに依存しない、地に足をつけた新しい日本の姿だと、私も思います。その心意気に大いに共感しました。
ツアーに従ってお話を聞いたり、バイオマスの見学をするだけでなく、お昼を取るのもこの「くずまき高原牧場」でした。すごく手ごろな値段の牧場の牛さんの焼き肉は、柔らかくておいしいこと。牛乳は瓶の口にクリームが固まっていて、とても甘かった。これは一度は子どもたちに飲ませたい味でした。第3セクターでホテルもつくり、こうした努力で、いまや年間60万人の観光客を引き寄せています。過疎の町が、酪農と林業で生きていこう、そのためにそこから発生する副産物としてのエネルギーを余すことなく生み出そう。そう見定めて奮闘している若い職員さんは、本当にこの町を誇りに思っているんだな、とつくづく思いました。
それにしても、2日間で移動距離400キロ。さすがに疲れました。